2010年05月20日

【神戸スイーツ年代記(クロニクル)】ケーキハウス ツマガリ 津曲孝 59歳(産経新聞)

 □贈った人の値打ちが上がる。そんな仕事が僕の使命。

 ■全国から注文も1店にこだわる「製菓技術者」 投げ散らかすように売ったらいかんのです。

 ある日、「クロネコ」のマークをつけたトラックが店の前を行き交うのに気付いた。ドライバーが「配達ばかりで荷受けはほとんどない」と言う。贈答品のお返しは大阪や神戸の百貨店から送っているらしい。

 「よし、うちから送ってもらおう。おらがまちのスペシャルお菓子を作ってやる」

 宅配便の誕生と普及。それがなければ、津曲の成功はなかっただろう。

 ヤマト運輸が「宅急便」の名で初めてサービスを開始したのは昭和51年。「電話1本で、1個でも家庭へ集荷、翌日配達」という利便性が受けて他社も続々参入、物流に一大革命をもたらした。

 ちなみに宮崎駿監督のアニメ映画『魔女の宅急便』が大ヒットするのは平成元年のことだ。

 昭和62年に洋菓子大手、エーデルワイス(神戸市)から独立、創業した。阪急神戸線夙川駅から伸びる支線の終点、甲陽園駅(兵庫県西宮市)から徒歩数分。商店街といっても名ばかりの、人通りの少ない場所で、わずか17坪の店からスタートした。

 ◆贈答の哲学 

 生ケーキはこの本店のみで売る。ショーケースに並べられる分だけつくる。一番おいしい、できたてを食べてほしいから。

 支店は出さない。後に大丸の神戸、梅田の2店に出すが、あくまで例外。「義理があって、どうしても断り切れなかったんです」

 宅配便で贈答品の焼き菓子類の通販を始めて売り上げが伸びた。その後、インターネットによるオンラインショップを導入。現在、売り上げの3分の1を占め、平均で1日250件の注文が入る。東京はもちろん全国の熱烈なファンに支えられている。

 店の近くに工房はあるが、今後も大きな工場を建てるつもりはない。なぜ?

 そんな素朴な疑問に、逆に問いかける。「『贈答』ってどういうことか知ってる?」

 贈答は、贈った人の人格が評価される。もらった人に感動を与えなければならない。「さすがは〇〇さん。すごいなあ」となるか、「なんやこれ。やっぱり〇〇さんやなあ」となるか。

 大阪でおいしいお菓子を売っていたとする。東京まで持っていくと喜んでもらえる。ところが、東京にも同じ店があって買えたら、ありがたみがなくなる。

 「買う人のプライドを傷つけたらいかん。投げ散らかすように売ったらいかんのです。贈った人の値打ちが上がる。そんな仕事をすることが僕の使命」

 ◆伝統菓子を愛する

 「これこそお菓子。おしゃれでしょ。もともと僕はこういうのが得意」

 「リリプルコンフェクト」と名付けた焼き菓子。若いころ、スイスで修行したときに学んだ伝統菓子をモチーフに木の実や木イチゴのジャム、チョコレート…と素材の味をしっかり引き出した。お菓子とは、100年、200年の歴史を持つ文化的なものだ。

 「ロールケーキをお菓子とはいわない」「果物が乗ったケーキをお菓子とはいわない」「日本の菓子屋がこれをお菓子といったら、ヨーロッパでばかにされる」と言い切る。

 が、ロールケーキはツマガリ本店で売られている。色鮮やかなイチゴショートはショーケースの主役だ。

 実際、津曲が作るロールケーキはうまい。しっとり、ふんわり、今流行の食感に仕上げている。客に喜んでほしいから作る。3時間で売り切れる。でも、それ以上は作らない。これでもうけるのはプライドが許さないから。

 ロールケーキぐらい作れるさ。しかも、どこにも負けない、とびきりうまいものを。でも、本当に食べてほしいものは別にある。津曲の目がそう訴える。

 ◆ファストスーツ

 ツマガリ創業以前、洋菓子店の大手は続々と東京進出を果たし、ナショナルブランド化した。工場を建設し、百貨店への出店やフランチャイズ化で店舗の拡大を競っていた。

 自分の作品をより多くの人に食べてもらえるのだから、職人冥利に尽きるといえる。しかし、失うものも大きい。そのジレンマを身をもって知っていたから、津曲は独立、創業したのではなかろうか。

 辻調理師専門学校の校長で名エッセイストだった辻静雄は、昭和40年代末に「チョコレート」という題のエッセー(『フランス料理の手帖』新潮文庫)で、日本の洋菓子界の状況を憂えていた。

 ≪買った人も、もらった人も、思い出になるような、手作りの味をひとつひとつを丹念につくり出し、けっして天文学的な売り上げ高を目標にせずに、しっかりと地に足をつけて堅実に地盤を確立していくようなお菓子屋さんは日本では生きながらえていくことができなくなってきている≫

 店を大きくしなくても全国に送り届け、食べてもらえる。味、品質をしっかり守りつつ、もうけることもできる。そんなビジネスモデルを作った津曲の後を「神戸スイーツ」の若手職人が追いかけていった。

 現在、空前のデフレが安売り競争を激化させている。ブランドを傷つけたくないため、値下げする洋菓子店はほとんどない。が、ロールケーキやプリンといった低価格商品が売れ筋だ。これらはコストパフォーマンスが高く、大量生産・販売にも向いている。

 こうしたファストフーズ、ファストファッションならぬ「ファストスイーツ」に傾斜すればどうなるか。高い技術が必要とされない分、人材が育たなくなりはしまいか。客も菓子本来の味を忘れてしまう可能性がある。

 津曲は創業時、山のようにあった製菓コンクールのトロフィーや表彰状をすべて捨てた。名刺には「製菓技術者」と肩書を刷った。今もそれは変えていない。

 菓子作りに意地と誇りをかけた闘いは、続いているのである。(敬称略)

 文・安東義隆

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posted by ムロタ ケイジ at 05:29| Comment(4) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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